日本を始め、台湾や中国といった東アジアの諸国には伝統的に「泣き女(“なきおんな”または”なきめ”)」という女性の仕事があった。これは、誰かの葬儀の際に参加し儀礼的に泣くことによって故人を悼む役割の職業である。遺族に雇われた泣き女たちは葬儀の場で大げさに泣き叫ぶ、いわば「葬儀専門のパフォーマー」だ。これは、大勢の人に泣かれる故人はより徳が高いという考えに基づくもので、日本でも一部では近代まで残っていた。その他の東アジア諸国では以前よりも数を減らしているものの、現在でも存在する仕事である。
実際の海外の泣き女の映像を見ると手にはマイクを持ち、大げさな身振りで泣いて見せるのだが、出番が終わればケロっとしてしまっている。泣き女はちょっとした小遣いを稼ぎたい女性の仕事としても知られているようで、完全に形式的なものであることが分かる。
現代の日本ではさすがに泣き女はいないが、葬儀に関して言えばもはや形式でしかない事も多い。死んだ後の意識があるかないかは分からないが、葬儀とは故人に対してではなく残された人たちのためのものだ。いくら読経や焼香をしたところでおそらく故人がそれを分かって喜ぶものではないだろう。むしろそういった行為は残された家族や知人が故人を偲び、別れを確認するためのものだ。泣き女にしてもその儀式を見ることによって気持ちの中で一つの区切りがつくのではないだろうか。
確かに、雇ってやってもらっている事は周知の事実なので、泣き女の人数やグレードで関係者の財力をアピールする狙いもあるのかもしれない。日本ではもはや見られないものだが興味深い習慣ではある。